vol.89将棋の歴代最多勝利1,434勝を達成した羽生善治棋士と潜在意識【人生を好転させる潜在意識の活用法】

羽生善治棋士が前人未到の永世7冠を達成したのは2017年12月でした。永世7冠とは、1つのタイトルを取ってそれを保持するだけでも大変な将棋界のタイトルで永世の称号が与えられるすべてのタイトル(名人、竜王、王位、王座、棋王、王将、棋聖)を通算または連続で5期~10期など一定期間保持した棋士のみに与えられる称号です(タイトルによって永世の称号が与えられる規定は異なります)。羽生棋士は、この7冠を同時にすべて独占して保有するという同時7冠の偉業も1996年に達成しています。

 

そして、今回羽生棋士にまた1つ新しい大記録が生まれました。それは、空前絶後とも言われた故大山康晴棋士が持つ通算勝利数の記録1,433勝を破り、歴代最多通算勝利数の1,434勝を2019年6月4日に達成したことです。対局数など時代背景が異なるので単純に比較はできませんが、故大山棋士が記録を達成したときの年齢が69歳で勝率は0.647でした。

しかし、羽生棋士は48歳で勝率0.708での達成ですので、まだまだこの記録が伸びていくことを考えると、この偉大な記録も現時点は単なる通過点であって生涯の通算勝利数はどれほど大記録になるのか現時点では予測できません。さらに羽生棋士には、もう1つ大きな記録が期待されています。
それは、タイトルの通算保持100期の記録です。現在は無冠ですが、これまでタイトルを通算99期にわたって保有しており、今後どれか1つタイトルを取れば、その時点で通算100期になって、これもまた前人未到の大記録となります。

 

羽生棋士は、小さい頃から類まれな才能を発揮し、プロになってからは「名人になれるのか?」ではなく、「いつ名人になるのか?」とまで評されました。これからもさらに記録を伸ばし続けることは疑いの余地がありません。羽生棋士のこれまでのすばらしい記録は、才能による部分が確かに大きいですが、これほどの突出した記録が単に才能だけでなく成し遂げられたものではないと考えられることについて紹介します。

一般的に自分の持っている才能を100%発揮できている人は多くありません。また、優れた才能を持っていても「玉磨かざれば光なし」のことわざもあるとおり、優れた才能や素質を持っていても、さらに努力して自分を磨かなければ、才能や素質を生かせません。そこで、羽生棋士の才能を磨き、成功に導いた「努力」と、「努力」以外の要因である「潜在意識の働き」について紹介します。

 

■羽生棋士の強さ1つ目の秘密

羽生棋士の強さの秘密の1つ目は、天才でありながら執念を持った努力をしていることです。この点については、加藤一二三棋士が羽生棋士を評して「すばらしい手を絶えず研究している」と述べています。羽生棋士の「絶えず研究」には、一般的な研究とは少しニュアンスが違います。

一般的に最高位を極め、あるいは勝負にこだわると、自分の得意な土俵で戦おうとします。例えば、挑戦を受けて立ったり、自分の得意な戦いに持ち込んだりして勝とうと考えます。しかし、羽生棋士は、あえて相手棋士の得意な戦法(土俵)で戦って、相手の戦法の良い部分を吸収する戦い方を行っています。
言い換えれば、王者として相手を迎え撃つのではなく、むしろ挑戦者として戦い、自分にはない経験を増やそうとしています。これによって、「相手の得意戦法で戦うことを避けると、そのときは勝てるかもしれないけれど、そのために後で、ずっと勝てないようになるかもしれない」と考え、勝負に負けるかもしれないというリスクを取って、その代わりに自分の成長につなげるという将来を見据えた執念ともいうべき努力を常にしようとしています。

 

また、羽生棋士は、「棋士生活で何十年も同じモチベーションを持ち続けることがとても重要だと思っています。将棋界にかかわった多くの人たちをみてきましたが、一つの場面ですごいひらめきを見せる人よりも、将棋に対する情熱を長期間継続して持っている人の方が成功している例が多い気がするし、それこそが才能だと思います」と言っています。

モチベーションは、挑戦する者により強く表れ、最高位をきわめるとモチベーションは低下するのが一般的です。その点、相手の戦法でも戦うという挑戦者の気持ちを持つ羽生棋士は、この点でも優れています。そして、才能の発揮には、努力は必要ありませんが、それよりも執念のごときモチベーションを長く維持することが重要で、長く維持するには努力が必要です。

 

有名な発明家エジソンは次のような言葉を残しています。

・生まれつきの能力はまったく無視はできない。それでもやはり、これはおまけみたいなものだ。絶え間なく、粘り強く努力する。これこそ何よりも重要な資質であり、成功の要といえる。

そして、羽生棋士も次の言葉を残しています。

・何かに挑戦したら確実に報われるのであれば、誰でも必ず挑戦するだろう。報われないかもしれないところで、同じ情熱、気力、モチベーションを持って継続しているのは非常に大変なことであり、私は、それこそが才能だと思っている。
・私は、才能は一瞬のひらめきだと思っていた。しかし今は10年とか20年30年を同じ姿勢で同じ情熱を傾けられることが才能だと思っている。

エジソンや羽生棋士の2人だけではなく成功には執念というべき努力が必要な例は他にもたくさんあります。

 

■羽生棋士の強さ2つ目の秘密

羽生棋士の強さの秘密の2つ目は、潜在意識の活用が他の棋士よりも優れているからと考えられます。将棋は、先を予測する「読み」と現在の局面を正しく判断し、方針を決める「大局観」の2つが勝負に勝つには重要と言われています。

羽生棋士は、著書で読む力は若い棋士が上だが、経験を積めば積むほど「大局観」の精度が上がっていくから若い棋士とも互角に戦えると述べています。読みは顕在意識を働かせることで生まれますが、大局観は潜在意識のなかにある膨大な棋譜のパターンのなかから現在の局面に最適な棋譜を瞬時に選択できます。

羽生棋士には、幼稚園のときのエピソードに「公園で写生したとき、羽生棋士だけが何も描かずに景色をずっと見ていたので、保育士さんが少し行動の遅い子と思い絵を描くように促したところ、羽生棋士は一気に絵を描いてしまった」というのがあります。すでにこの頃から、将棋の手を読むように絵のイメージを頭のなかに描いていたようです。風景をイメージとして脳に残すためには相当な集中力が必要ですが、羽生棋士にはその片りんが、この頃からありました。

 

そして、この集中力で望むものを明確にイメージすることで潜在意識に落とし込めます。羽生棋士は、この集中力が極めて高いことから、より精度の高い「大局観」を持てるようになっていると考えられます。膨大な将棋の読みや棋譜を潜在意識に落とし込めるには才能が必要ですが、私たちが通常望む夢や希望は、才能がなくても潜在意識に落とし込めます。そして、潜在意識を羽生棋士と同様に働かせれば夢や希望を実現できます。

人生を好転させる潜在意識の活用法

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