お笑い芸人でほぼ全盲という視覚障がいのある吉本興業所属の濱田祐太郎さんが、ひとり芸の日本一を決定する「R-1ぐらんぷり2018」で優勝しました。
平昌パラリンピックで同じような障がいのある選手の努力や才能に大きな感動を受けましたが、過去最多の3,795人が参加した芸人の頂点を極めたこの優勝もまた感動的です。
なぜなら多くの人は、実現したい夢や願望を持っていても何らかのハンディキャップがあったり、壁にぶつかったりすると、それを理由に夢や願望を自ら諦める理由を作ってしまうからです。
特に身体的な障がいは、努力で解消できるものではないだけに自分に対して消極的・否定的になると思われます。
なぜ、濱田祐太郎さんがお笑いを続けて優勝までたどり着けたのかを知ることは、夢や願望に何らかの理由をつけて諦めようと思いがちな私たちに勇気とヒントを与えてくれます。
それは、小さいころからの願望が潜在意識に強く刻み込まれたことともに、普通の人が襲われる夢や願望を妨げる敵を封印したからです。
■夢や願望の実現を妨げる内なる敵とは
濱田祐太郎さん自身のことを知る前に、人は誰もが自分の夢や願望を実現したいと思っているのに、その願望の実現を妨げる内なる敵を持っていることを紹介します。
人には、「行動するな」「感じるな」「考えるな」などの自分にブレーキをかけるネガティブ思考・自己防衛システムが備わっています。
それは、恐らく人類がこの世に誕生して以来、さまざまな危険をくぐり抜けて生き抜くため身につけた仕組みではないかと思われます。
ときには危険を顧みない行動も必要であったかもしれませんが、それと同時に危ない立場にあるときや弱い者は、保守的な考えをしないと全滅するためにネガティブ思考・自己防衛システムが遺伝子に組み込まれたのでしょう。
そして、今でも子どもは親にいろいろなことで叱られます。それが繰り返されて、物事や行動の良し・悪しの判断ができるようになります。
それとともに原始時代のような死ぬかもしれないという危険性がない時代においても、遺伝子に組み込まれたネガティブ思考・自己防衛システムを無意識に働かせるようになるのでしょう。
■具体的なネガティブ思考とその弊害
私たちは現在や将来・過去の自分や環境に対して、ごく自然にネガティブな思考をします。
・自分には何もいいところがない
・あのとき、◯◯すべきだったのにしなかった
・(すべてが失敗しているわけでもないのに)何もかも失敗しそうだ
・(感情的になって)もうだめだ
・(少しは進歩しているのに失敗すると)まったくだめだ
・(結果論だけで)いつも失敗する、決していいことは起きない
・(自分のせいなのに)他人・環境のせいだ など
その結果、自分や現在と将来に失望し、自分自身や周囲が悪いから夢や願望は実現できないと考えて、前向きな行動を起こさなくなります。
■濱田祐太郎さんの夢・願望
濱田祐太郎さんは、小学生のころにテレビで聞いた漫才が好きで、中学生のころにはお笑いの舞台で活躍したいと強く思っていたと語っています。
両親は、ハンディがあるから、あるいは芸人の世界で食べていくのは厳しいからと強く反対します。しかし、反対する両親を説得するために、21歳までにあんま・マッサージ・鍼・お灸の資格を取得。
その後で吉本芸能総合学院(NSC)に入学します。そのとき「目の不自由な人をサポートする仕組みはない」と言われたそうですが意に介していません。
自身の身体的なハンディ、両親の反対、吉本興業のサポートなしなどのネガティブなことがあっても、お笑いの世界を目指した動機は、お笑いの仕事に対する強い憧れと単純に「お笑いが好きだ」という理由と語っています。
お笑いが好きからお笑いをやりたいというシンプルで強い思いがネガティブな思考を抑え込んだのでしょう。
お笑いで成功したい、お金を稼ぎたい、あるいは有名になりたいなどの理由も夢や願望の実現には重要ですが、これらの理由は相対的で比較できることから、ネガティブで自己防衛を図る思考になる可能性が「好きだから」という理由よりも多く生じます。
「好きだから」は自分の思いだけであり、好きなことはやり続けたいと思うのでネガティブな思考は生じません。
■濱田祐太郎さんから学ぶネガティブ思考にならない方法
濱田祐太郎さんから学ぶネガティブ思考にならない方法は、「純粋に好きだと思うこと」「自分に忠実になること」の2つです。
1.純粋に好きだと思うこと
夢や願望をかなえるには、潜在意識の底の底まで実現したいという思い込みが重要ですが、それに加えて夢や願望を単純に自分の好きなことだと思いこむことです。
「お金が稼げるから◯◯になる、あるいはしたい」ではなく単純に「◯◯が好き」だけになる、あるいはそう思いこむことです。
2.自分に忠実になること
濱田祐太郎さんは障がい者であることから、メディアから「お笑いをとおして障がい者への偏見や障がい者を勇気づけたい思いはあるか」とよく聞かれるそうです。
その質問に、「特にないんです。僕のネタを見て勇気づけられるのであれば、障がいがあってもなくてもかまわない」と回答しています。
この回答から、まったく自分が障がい者であることを意識していないこと、あるいは自分が障がい者だからそのために頑張っているという気持ちが伺えません。さらに舞台でお客さんが笑わないときは、「今日は誰もお客が来ていないから」と思うようにしていると語っています。つまり、「◯◯だから~できない、しない」というネガティブな思考が、障がいということだけに限らず他のことに関してもないように思えます。
ネガティブなことに対してポジティブに考えることは重要です。しかし人は無意識にネガティブな発想をするので、どんな状況でもポジティブに考えることは実際問題として難しいことです。
これに関して、濱田祐太郎さんの会話を「YouTube」などで見ると、自分のことを「俺」と言っています。
「俺」は一般的には、自分自身と会話するとき、親しい相手、および目下の者などに使い、公式な場、目上の人、および目知らぬ人などに対しては通常使いません。
普通であれば使ってはいけない状況にもかかわらず「俺」と言っているのは、他人や自分を取り巻く環境は自分にとっては何の関係もないという意識が働いているからと考えられます。
他人や周囲を意識するからこそ、ネガティブな発想が出てきます。もちろん「俺は何をやってもだめな人間」と自分に対してもネガティブな思考をするときがありますが、純粋に自分の好きなことをやる自分には失敗しても「だめ」という烙印は押しません。
他人や環境を意識することなく自分の心に忠実になるようにすれば、ネガティブな思考を抑制できるようになるでしょう。