冬季北京オリンピックは政治的な問題をはらみつつ開催されましたが、超一流スポーツ選手の優れた技術による勝負やパフォーマンスは多くの人に感動を与えました。数々の金メダルのなか、今大会で特に印象に強く残ったのは平野歩夢選手のスノーボードハーフタイプにおける金メダルです。 平野選手しか公式試合で成功していないオリンピック史上初の「フロントサイドトリプルコーク1440(斜め軸に縦3回転、横4回転)」を含む複数の超高難度の技を完璧にこなして金メダルを獲得しました。この金メダルで驚いたのは、難しい技をこなせる平野選手の能力とともにメンタルの強さ、自己コントロール力の高さがうかがえたことです。 平野選手にメンタルの強さ、自己コントロール力の高さがなければ、もしかしたら歴史に残るパフォーマンスを成功させながら金メダルに届かなかった可能性があります。
メンタルの強さ、自己コントロールの高さが潜在意識に大きく関係していることについて紹介します。 平野選手の3回目の試技に大きな悪影響を与える可能性が、2回目の試技が終わったときに起きました。平野選手だけができる超高難度の技を連続して成功させ、会場も平野選手も当然1位の得点と思ったにもかかわらず得点は伸びず2位でした。 当然、オリンピック会場の観客からはブーイングが起こります。平野選手自身も、自分以外の誰もできていない技を成功させているのに「なぜ?」という疑問とともに強い怒りがあふれたはずです。 一般的に「怒り」は強い闘争心を生み出します。怒りによって脳からはホルモンの「ノルアドレナリン」と「アドレナリン」が分泌され、身体能力が向上します。「ノルアドレナリン」は脳に作用して、怒りをピークに持っていきます。一方、アドレナリンは身体に作用して筋肉と心臓の働きを向上させて身体能力を高めます。 そもそも怒りは動物が生き残るための本能です。敵に打ち勝ち、生き残るためにはパワーが必要です。そのため、怒りの感情を持つことは決してマイナスではなくスポーツにおいては怒りの感情を持つことはデメリットではありません。
しかし、スポーツはパワーだけではなく、繊細な技を繰り出すために全身の筋肉をコントロールする適切な状況判断が必要です。 つまり、多くのスポーツは怒りに任せてパワーだけの猪突猛進では勝てません。スノーボードは平野選手も命に関わるような大ケガをしていますが、危険なスポーツのため、冷静な判断力が必要なスポーツです。 しかし、怒りは本能であるため、誰でも簡単にコントロールできるものではありません。特に4年に一度しか行われずスポーツ選手にとって最高の舞台であるオリンピックでは多くの選手の感情は、普通ではなく動物に近い状態です。敵や己に勝ちたいという本能をむき出した状態になっていると考えられます。 そのようなときに自分の気持ちとかけ離れた得点しか与えられないと、大きな怒りが湧いてきて当然です。
そして、この怒りは行き過ぎると微妙に筋肉の動きを狂わせる可能性があります。これは、女子フィギュアスケート選手で圧倒的な能力の高さを持ち金メダルの最有力候補でありながらドーピングが疑われたワリエワ選手でわかります。 圧倒的な身体能力があっても、失望や怒りによってフリーの種目で満足な演技ができず、金メダルどころかメダルを逃したことでわかります。15歳の選手にはドーピング疑惑による周囲の騒動を自分から切り離す自己コントロールが十分にできなかったようです。 平野歩夢選手にとっても、名誉と命を賭けている演技に対する得点が客観的にみても低いと大きな怒りを感じるのは当然です。それによってパーフェクトな演技ができなかった可能性が十分に考えられます。
しかし、平野選手は2回目よりもさらに完璧な演技を3回目も成功させ、最高得点をたたき出します。その原動力はどんな環境にあっても最高の演技ができるメンタルを持ち、自己をコントロールできる能力です。その能力は過去の平野選手の言葉からわかります。 ・俺、小さいときにテレビで言っちゃったんですよね。スノーボードとスケートボードで世界一になるって、だからやるしかないんですよね。 ・自分を信じ、戦い抜けば、必ず結果がついてくると確信している。 この言葉を強く潜在意識に浸透させているから怒りの感情が湧いてきても、それに振り回されることもなく冷静にベストな演技ができたのだと思われます。最初の言葉は軽い感じに聞こえますが、平野選手が世界一を実現させるために大変な努力をしていることを知ると、その言葉の重みが理解できます。 怒りのメリットを生かしつつ、そのデメリットを封じて得た金メダルが、メダルの価値をさらに高めています。スポーツ選手にとって潜在意識のレベルでメンタルを鍛えることの重要性がわかるとともに、ビジネスや学問、夢や希望を実現させるためにも潜在意識の活用は欠かせません。