vol.72 大坂なおみ選手の全米に続く全豪オープン優勝と潜在意識
2019/03/11
2019/04/03
大坂なおみ選手が2019年1月26日テニスの全豪オープン・女子シングルスの決勝でチェコのクビトバ選手にセットカウント2対1で勝利。全米に続き全豪でも日本選手初の優勝を勝ち取りグランドスラム連覇を果たしました。
この結果、ランキングでも世界No.1となり、今後も長きに渡って大坂なおみ時代が続く幕開けであることを強く世界中のテニスファンに印象付けました。
大阪選手のプロでのツアー優勝は、まだわずか3回。しかし、そのうちの2回がグランドスラム大会の優勝という快挙です。年齢はまだ21歳。これからさらにどれほど強くなっていくのか、そしてどこまでグランドスラムの優勝回数を伸ばしていくのか、世界中のテニスファンの注目の的です。
また、大坂選手は、プレーだけでなくインタビューの受け答えからあふれてくるチャーミングさも魅力的です。誰もが好感を持ち、応援したくなる選手です。全米オープンは、実力プラス勢いで勝ち取った優勝であったのかもしれませんが、全豪オープンでは相手選手から研究され、追われる立場のプレッシャーを跳ね返しての堂々たる優勝でした。
そこで、心技体の何が全米オープンから進化したのか、そして潜在意識がどのように関わっているのかについて探ってみたいと思います。
■大坂なおみ選手の進化
大坂選手の魅力はサーブの威力とパワーあふれる攻撃のテニスです。その強みを生かすため全米オープンでは、相手のサーブを受けるときの位置が、ベースラインの前後で打った割合は、前が29%、後ろが71%でした。
しかし、全豪オープンでは、この比率がまったく逆になり、前が71%、後ろが29%でした。この戦法は、相手に圧力をかけられる、相手が打ち返す反応時間を短くできるなどのメリットがありますが、逆に速く打つためには威力のある強いボールに打ち負けないパワーが必要です。
また、自分も打ち返すための反応時間が短かくなるデメリットがあります。弱点を補強する練習で、強みをさらに生かすことに成功しています。
もう1つの大きな進化したと思われるのは精神面の強さです。決勝戦のクビトバ戦の第2セット、チャンピオンシップポイントを3回逃し、そのあと立て続けにブレイクも許して、結局第2セットを落とすという最悪の状態になりました。
優勝をほぼ手中にしかけていただけに大阪選手への精神的なダメージは大きく、試合途中で涙を流すほどでした。まだ、一方的にセットを落としたほうが次のセットへの切り替えができたと思われます。
しかし、トイレ休憩をとり、気持ちを切り替えます。敗れたクビトバ選手は、3セット目の大坂選手は2セット目とは別人になっていたと試合後に語っています。ちなみに、酷暑のなかの試合では汗が滝のように流れ出るのでトイレに行く必要はないと言われていることから、大坂選手のトイレタイムはトイレが主目的ではなく気持ちの切り替えのためであったと思われます。
このようなトイレ休憩を利用できるなど自分を客観視できる精神的な余裕を持てるようになっています。
このとき、大坂選手はマッチポイントを握っても勝てなかったのは、クビトバ選手が簡単に勝てる相手ではないと、強さを認めてセットを落としたのは自分が駄目だからではない、だから自分の力を100%発揮することに集中しようと気持ちを切り替えたと試合後に話しています。
2セット目のままの精神状態では100%の力が出せないことを認識し、気持ちを切り替えたのです。
■女子テニスの世界的なスーパースターへ
元プロテニス選手の杉山愛さんは、仮に実力を100%出し合って戦うとしたら、大坂選手は間違いなく誰にでも勝てる実力があると述べています。実際は、体力や体調・精神面で万全でないときもあるので勝ち続けることはほぼ不可能です。
しかし、大坂選手には、心のコントロール面での著しい成長や、技術面での進歩、体力の増強など心技体のあらゆる面で確実に進化していることから、スーパースターへの階段をすでに上り始めています。
■大坂なおみ選手の潜在能力と潜在意識
大坂選手の潜在能力の高さは、杉山愛さんに限らず多くの人が認めています。ただ、一方で潜在能力を100%発揮させることが困難なことは、「火事場のばか力」という言葉があるように、脳が勝手にブレーキをかけて表に出せる能力は潜在能力よりも大きく劣ります。
筋肉の力だけを潜在能力に近づけるなら、大きな声を上げることで脳のブレーキを外せます。そのため重量挙げ、あるいはややり投げなどの投てき種目で多くの選手が大きな声をあげています。
しかし、テニスのような複雑な技術が必要な種目では単に大きな声を出すだけでは潜在能力を最大限に発揮することは困難です。潜在能力を限りなく100%発揮させるには、積み重ねてきた練習の成果や、この選手にはこのような戦法で対応するなどの潜在意識の奥に眠っているものをすべて引っ張り出してくる必要があります。
無意識にできるところまで鍛え上げた一流のアスリートであっても、試合中、常に100%の状態を持続することは、勝ちを急いだり、逆に負けを意識したりしてほぼ不可能です。
過去の大坂選手は、劣勢な状況で自分の気持をコントロールできないと、そのまま自滅していました。しかし、全豪オープンのときは、無意識にできることや、意識しないとできないことなど潜在意識をより自由自在にコントロールできるように成長しています。
勝つというイメージを強く持つことは大事ですが、それが弱くなったとき、大坂選手がクビトバ戦でみせたトイレタイムのように、どうすれば強められるかを知っていると潜在意識をさらに生かせます。
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